【自分語り#2】ふたつよつ。いとをかし。

自分語り

おっぱい。という女性がいた。
二年ぶりに復活したブログの2回目のエントリの出だしがいきなり「おっぱい」という単語なのもどうかと思うけど、実際居たんだから仕方ない。
彼女は俺に輪をかけて怠惰な人だったけど、優しくて面白い女性だった。
もう6年くらい前かなぁ。当時俺は「フリーライター」として自宅でセコセコ働いていて、あんまり人に自慢できないような記事を書いたり、たまに小説を書いたり、あるいはブログを書いたりしていた。足立区の2DK。家賃は確か6万だった。それを2部屋借りて、片方を仕事場に。片方を棲家にしていたのだけども、なんやかんやあって、彼女は俺の元を離れていった。

エロトマニア、という言葉がある。精神疾患の一種だ。

知らん人の為に説明すると、自分は相手に愛されているに違いない。愛されているはずだ。こんなに愛しているのだから、自分が愛されていないはずがない──みたいに「相手からの絶対的な愛を盲信する」病だ。
んで俺は今思えば、コレに近い状態だったんじゃないかなと思う。
まー……。逆の立場になってみればねェ。日がな一日カリカリしながらずっとPCに向かって文字ばっかり書いてて、そのくせ稼ぎもあんまりないし、掃除しろ掃除しろうるさいし。こんな男嫌だもの。他のもっと、若くて将来性のある男が出来たら、すっと逃げるに違いない。当たり前なんだよ。でもねぇ当時の俺は「おっぱいがどっか行ったのが信じられなくて」、ものすごい勢いで凹んだ。凹みすぎて呼吸がうまく出来なくなるくらいには、しっかり凹んだ。

そうして文章が書けなくなって、いよいよ生活も駄目になって、一人きりで「二人の棲家」に居るのにも耐えられなくなって、働きに出る事にした。
最初は某お菓子メーカーの工場だった。
朝4時に起きて、6時には現場について。何やるかといえば、「コンベアから流れてくるトレイにのったお団子に良く分からん粉を掛ける」という作業だ。

(ロボッツにやらせろや)

と喉元まで出かかったけど、何も考えず粉掛ける作業はハートブレイク一直線の俺にとってはそこそこ癒やしに近い作業だったように思えなくもない。
問題だったのは一緒に働いてる人で、今思い出しても笑っちゃうけど、あだ名が「社長」だったんだよね。何処の世界にコンベアで流れてくる団子に粉掛ける社長がいるのか知らないけど、みんな彼の事を「社長」って呼んでたんだから、まあほんとになんかの社長だったのかも知れない。ただ彼は徹底的にハゲ散らかしてたし、前歯が一本も無かったし、そして通勤に使ってた原チャリのシートはカッターで切り裂かれてズタボロだったけども──まあ、そういう社長が日本に一人くらい居ても不思議じゃない。なんせ本邦には1億人以上も居て、それぞれ自由に生活してるんだから。

社長と粉をかけつづける事2時間か3時間。

娑婆っ気が抜けきってない俺は工場の社員の女の子と喋りながら作業してた。
その頃になると工場内のヒエラルキーも見えてきてて、社員と日雇い派遣の(俺を含む)オッサンたちとの間には、質量を持ったような分厚い身分の壁があるのが分かってたんだけども、まぁ、普通に喋ってたね。えぇ、葛飾から来てるのォ。マジでェ。近いじゃーん。イカした飲み屋どっかないのー。教えてよォ。ウフフ。
そしたらねー、怒鳴られたんだよなぁ。社長に。いいんだよそれは。怒鳴って結構。全然オーケー。全く問題ない。でもねぇ、内容なんだよ。ワードチョイスというか。怒鳴り声の中身がちょっとねぇ、酷かったんだよ。

「あァたライン工なめてんの!?」

これねぇ……。笑かそうとしてんのかなぁと思ってさ俺。
だって徹底的にハゲ散らかして前歯全部無いオッサンが、バキバキにシートがブチ破れた原チャに乗って通勤してきて、社員の女の子と喋ってるルーキーに「ライン工なめてんの!?」って怒鳴ってんだぜ。しかもあだ名「社長」だから。
世界観がイカれ過ぎてて無理だった。

「あぁ……。いやー。なんかすんません」

工場の仕事は始業が早い分、終わるのも早かった。
たしか16時ごろにはもう電車に乗って足立に帰りつつ、その道すがら「いや流石に工場はねぇや」って思ってすぐ別の派遣会社に登録して、自宅に着く頃にはもう次の仕事が決まってた。
それが「家電量販店」だ。思えば俺の人生の第二章は、ここから始まった気がする。

●『セブンラッシュ』と電器屋。

こっからの展開はめちゃ早かった。
重要なのは2つ。

まず、どうやら俺は家電量販店が向いていたという事。
あっという間に派遣じゃなくて契約社員になって、そっからいっとき社員になったり業務委託になったり条件の良い方にぴょんぴょん飛びついて、給料3倍くらいになった。
友達もすげー増えた。ただ、電器屋の仕事はずっとイヤだった。毎日イヤ。最初っから最後までずっとイヤだった。でも生活は安定した。

そして2点目。こっちのほうが重要だ。なんとブログを見た『マスクド・モリタ』さんからお声が掛かって、『セブンラッシュ』という媒体でお仕事をいただける事になったのだ。
これは本当に嬉しかった。
もはやライターとしてはやっていけないと思ってたから、文字を書いて少しでもお金を貰うことが出来るのは、眼の前にあるビニールに空いたちっちゃな空気穴みたいな、一縷の生存の希望に近かった。
今はすっかりパチスロ業界でしか物書きの仕事をしてないけども、オッパイ以前は逆にパチスロで仕事なんかしたことがなかったんで、これは激変と言ってもいい。ぜんぶマスクド・モリタさんのおかげだ。

さて。

ある時『ニコナナ』という媒体のお仕事で『ろまん回胴』という連載をやらせて頂いた事がある。
文学が好きな人はピンと来るかもしれないけども、太宰治の『ろまん燈籠』のパクリというか、オマージュだ。内容は太宰の遺作である『グッド・バイ』を『パチスロを絡めながら自分なりに完結させよう』という……今考えると一体何がしたかったのか良くわからない企画だけども、その企画の流れで、俺はある女性と知り合った。
干支子ちゃんという、12歳下の女の子だ。
オッパイ事件から2年くらいか? 経った頃だ。気付いたら付き合う事になってた。最初はそんなに好き好き感は無かったけど、いつしかガッツリとハマった。泥沼のような恋愛だ。エロトマニア、という単語を最初の方で出したけど、ここでもその性癖は遺憾なく発揮された。愛したいし愛されたい。愛してるから愛されないと駄目だ。自分とか相手とかそういうのを取っ払って、ネジ式になってハマりたい。どろりとひとつ。絵に描いたような破滅型の恋愛だけど、よくよく考えたら俺はもう37歳(当時)だし、物書きとか言ってる場合じゃねぇ。働くぞ働くぞ。稼ぐぞ。稼ぐ──。全ては愛する女性の為に……。

と、気付いたら俺はブログの更新すら辞めて、連載も御座なりになり、PCに向かう頻度もすっかりと減って「お仕事マシーン」になっておった。また、暗黒期の始まりである。

●ふたつよつ。いとをかし。

干支子ちゃんとのお別れは突然やってきて、すぐに済んでしまった。
細かい事情は伏せるけども、たぶん俺のせいだったと思う。
オッパイのときも突き詰めれば俺のせいだったんだけども、それとは違う意味でもっと分かりやすく俺のせいだった。
要するに、我慢出来なくなったのだ。
んでとある事件をキッカケにそれがパンと弾けて、後にはびっくりするくらいの痛みが来た。
激痛だよ。めちゃくちゃ痛かった。当時俺はとある外資で働いてて営業やってたんだけども、あまりの激痛に会社を2週間くらいサボった。
もう足立から浅草に引っ越してた時だけども、日がな一日ベッドに転がって、撮りためたバラエティ番組をボケっと見ながら、オシログラフの波のように定期的にやってくる別れの痛みに耐えながら、もしかしたらコレを飲んだら少しはマシかもとロキソニンまで飲んで、ずっとうずくまって耐えていた。後悔と絶望しか無い。駄目だこれはと。もうコレは駄目。

あまりに痛すぎて「足がよっつある生き物を飼おうと思った」。

もう俺は女性は良いやと。
毎度毎度別れがつらすぎるし、こんなに依存するなら麻薬と一緒だから断たないと駄目。
とはいえ一人で生活するのも寂しいから、犬か猫かフェレットか──。とにかく足がよっつある生き物を飼おう。
どうせなら、猫だ。
猫。
猫を飼おう。
そうだ。ペットショップなんかじゃなくて保護猫がいい。それに有り余る愛情とか父性を全部ブチ込んで、デレデレの激甘生活を堪能しよう。この家に来て良かった。この世に生まれて良かった。猫に生まれて本当に良かった。そう思って貰えるくらい、全力で愛そう。

パッと目の前が明るくなった気がした。

その勢いで当時別れの辛さを忘れるために入り浸っていたBARに行き、マスターに向かって「俺は猫を飼う」と宣言した。すると、カウンターの逆サイドに座る女の子が「私も飼おうと思ってるんですよ」と話に乗ってきた。

「俺は保護猫飼おうと思っててさ。どこで会えるか知らないけど」

というと、その子はちょっと目を丸くして。微笑んだ。

「私、保護猫の譲渡会のボランティアやってますよ」
「へぇ。凄い。じゃあ、そこに行けば保護猫に会える?」
「もちろん。そういう所ですから」
「お金かかるのかなぁ……。俺仕事クビなりそうでさ。できれば安い方が助かるなぁ……」
「そんなにかからないですよ。高い所は高いけど、私の所は……避妊手術代と……予防接種代くらい? ですかね」
「へぇ……。ちょっと興味あるな……」
「なんで、ペットショップじゃなくて保護猫がいいんですか?」
「だって──……」

面倒くさがり屋な俺は、告白とプロポーズは一緒にした。
一年後に結婚しよう。
そしてその言葉通り、出会ってほぼ一年後に入籍した。
ほんの少し前まで、一人きりでベッドにうずくまって、得体の知れない痛みに耐えていたのと同じ部屋には、今では二本足の生き物が二人と、四本足の生き物が一匹。
狭いベッドで川の字になって──……。

あたたかい。

●この船を漕いでゆけッ!

さて。
この冬で、我々の夫婦生活はめでたく一周年を迎えた。
そしていよいよ俺は、電器屋を辞めた。
フリーライターとして再出発するだめだ。
前回よりむっちゃ楽。なんせ仕事がある。
前は仕事を探すのが一苦労だったけど、今回はその辺にちょっとブーストが掛かってるのでだいぶ楽である。すぐ転げ落ちそうな気もするけども……。

「なんで嫁居るのに独立したの?」

とここ数日で何人かに訊かれたけど、答えはすごい単純だ。
逆なんです。嫁さんが居るから、ちゃんとやりたいのだ。
欲を言えば子供が出来る前、夫婦と猫だけで生きてる間に、しっかり自分のやりたいことをやってる姿を、見せておきたいのです。
いやー……。このタイミングで仕事辞めるのすっごい怖かったけども、もう辞めたから四の五の言ってられねぇし。やるっきゃ騎士(ナイト)!! ウォォォ!! まずはブログ復活! あッ消えてる! みたいな! エヘヘ!!

というわけで、今までの振り返りはザクッと終わりだぜ。
今後もまた過去を振り返りつつになるけど、くだらない事を書いて行きますか!


コメント

  1. 焼きたてのパン@シロ より:

    よき
    ただ、ライン工は舐めたらあかんw

    この世の全て、そう我々が食べる食事もライン作業の果てに手元に届くものだ。
    世界はラインで支えられていると言っても過言ではない。

    • ashino より:

      シロさん
      チワッス!
      し、失礼しました! 世界はラインに支えられている──……。肝に銘じておきます!

  2. cktk より:

    おかえりなさい。
    待ってましたぜ!

  3. ヒロ(くま) より:

    お帰りなさいませm(_ _)m
    またブログ楽しみにしてます!

    • ashino より:

      ヒロくまさん。
      チワッス!
      ただいまです! いつもありがとうございます。
      こっち来た時飲みましょうぜ……!

  4. 島唄吾郎 より:

    ずっとブログ拝読してましたが、コメント残すのは初です。

    待ってましたーー!!

    そして、相変わらず長ーいwww

    けど、すーっと読めるんですよねー。
    マジで楽しい(^^)

    アシノさんは、もっと世に出るべきだ!!

    • ashino より:

      島唄吾郎さん
      チワッス!!
      そう!! 長いです! 俺は超長い!!
      でもいつも読んでくださってありがとうございますー!!
      今後共よろしくお願いします!!

  5. まむし より:

    お久しぶりです!
    前と変わらずお話の展開が上手いなぁ…なんて読んだあと感心してしまいました
    あしのさんの文章に触れることを出来るのが嬉しいし楽しみです。頑張ってください!

    • ashino より:

      まむしさん
      チワッス!!お久しぶりです!!
      いやーーありがとう御座います。
      今後も面白いもん頑張って提供していきますので、よろしくおねがいします!!

  6. べるさま より:

    どん底の僕がパチスロにハマって、嫁と結婚して、友達がたくさん出来た、大きなきっかけになったブログです。
    5スロで稼げるか、おかえりなさい!

    • ashino より:

      べるさま
      チワッス!!
      ただいま! そしていつもありがとう!!
      今度ご飯食べにいきます!! お互いがんばろー!

  7. そんさく より:

    なぬ。
    結婚されたのは知ってましたが、干支子さんではなかったのですね。。。

    でも何となく順調そうで良かったです!
    更新なかったらさみしいですけど、過去記事やその他サイトの記事を読んで勝手に楽しんでますので、ブログよりもお仕事やプライベートの方優先で、無理せずにこれからもよろしくお願いしますね!

    • ashino より:

      そんさくさん。
      チワッス!
      そうなんですよ。干支子ちゃんじゃないのです。フフフ。人生ってホント面白いですよね。
      はい、プライベート優先! もちろんです! あんまり気張らず、肩の力抜いてがんばります!!

  8. カル より:

    やっぱ、あしのさんの文章いいッスね!
    文章に引き込まれるから長いのにスッと読めちゃいます!

    ご結婚されてたのは、パチ7さんのバタフライさん回のコメント欄で知って、当時ビックリした記憶がありますw

    一周年おめでとうございます!

    色々な媒体であしのさんの作品が読めることを楽しみにしております!

    • ashino より:

      カルさん
      チワッス!
      イエーイ!ありがとうございます!
      様々な媒体で書きたい! 
      今の所水面下でちまちまやっとりますので、気長におまちくださいまし……!
      イエア!