いざ今生の──!

【お知らせ】ただいまユーザー参加型パチンコ・パチスロ情報サイト「パチ7」様のサイト内「自由帳」にて、自主的に連続コンテンツを連載中です。良かったら読んでやってください。アドレスはこちらです。検索に「あしの」って入れれば連載の一覧が出てくると思います。


チワッスあしのっす。
ご心配おかけしました。生きてます。
ええと……いつからサボってたんだ俺。
な……2月の頭からだと……?。
まる3ヶ月。
なげえ──。

いやぁ、最近呪われてんのかというほど面倒続きで自分の中で未処理の問題が渋滞を起こしたり解決したりとてんやわんやでして、正直何書いても鬱憤まみれになっちゃう感じだったんで、もうこれは壮絶にサボっとこうと。
んで漫画とゲームと映画とドラマと音楽漬けの生活を凡そ100日ほど満喫してたんですけども、ようやく落ち着いてきた感じです。

で、普通に更新再開する所存なんですが、とりあえずは未解決の──というか自分的には絶対書いとかなきゃいけないエピソードが一個あるんで、まずはそれ片付けちまおうそうしよう。

というわけで、今回はそんな話。
例によってスロに全然関係なくてホントすんません──。

●エーコさん。

書かねばならないトピック。
それはおばあちゃんについてだ。

おばあちゃん。
俺にはエーコさんというおばあちゃんが居る。
少年時代、家庭の事情で九州と東京を行ったり来たりしてた俺にとって、「九州の母」ともいえる存在が彼女、エーコさんだ。
母親と兄は子供ながらに「イカれてる」と一撃で分かる人だったし、そもそも少年時代にはほぼ一緒に生活してないんで、俺という人間の人格形成においては一切の影響を与えてない。賢しい俺は「君子危うきに近寄らず」を幼心ながらに体現して、ありていにもうさば、かなり長い時間あからさまに「避けてた」。
故に言葉は悪いかもしれんが、他人に近い。
今はかなり仲良くなってるけども、これも血のつながりがどうこうというよりも、お義理とか、渡世のテクニックとか、そういうのに近いと思う。
我ながら酷いけど。

じゃあほぼ一緒に住んでた父はどうか。

厳つい昭和の男のくせに放蕩癖があって本家の屋台骨をぐらんぐらんと揺るがしつづけてきたオヤジ様は、どっちかっつうと「怒ると怖いけど基本優しい近所のオッサン」的なポジで──これもあんまり参考にしてない。
というかしちゃダメな人だ。
掛け値なしに良い人だし、俺の中でも憧憬というか、理想というか、あこがれに近い気持ちみたいなのを持ってはいるんだけども、生きてく上でその軌跡を模倣しようとかそういうレール的な意味での参考には一切してない。
ホントいい人なんだけどもね。でも、これも言葉は悪いかもしれないけれど、いわゆる落伍者とか、斜陽族とか、没落ブルジョワジーとか、そっち方面なのだ。彼は。
要するに、土地と財産に甘えて爆遊して家傾かせたまんま、再起出来ずに老域に達してなおニコニコと笑って酒のんでる人なんです。
お陰で回りがどれだけ苦労したか。
俺は生まれながらにして貧乏だったんで別にいいんだけども、先祖から受け継いだ土地なんかが手前の息子の代で知障が遊ぶ陣取りゲームよろしくどんどん削られてく様を眺めてたエーコさんの気持ちを思うと、不憫でならんよ。
故に俺は「オヤジが大好きなファザコン」であると同時に彼のことがとても憎い。
なんでそうなるかというと理屈は単純で「俺はオヤジよりももっとエーコさんが好き」で、そのエーコさんをオヤジが不幸にしたのは、誰が見たって明らかな事だから。

母ちゃんと兄貴はイカれてて、オヤジは参考にしちゃダメ。

必定、俺はおばあちゃん──エーコさんに猛烈な勢いで懐いて、彼女から生きる術やら常識やらなにやらかにやら、とにかく、人生に必要なエブリシングを学んで、成長して、転んだり起き上がったり、藻掻いたり足掻いたり、パチスロ打ったりちんまん体操したり煙草吸ったり酒飲んだりしながら、そうして、現在に至っておるのです。

さて。

エーコさんはそれはもう矍鑠(かくしゃく)とした婆様で、怒るときは怒るし、褒めるときは褒める、子育て上手な大正時代のハイカラ系女子だった。
俺の一族郎党はもれなく全員映画が好きなんだけども、それはひとえにエーコさんが「古い映画のファン」だったのがデカい。
子供時代、リビングでオヤジとエーコさんと、三人でよく再放送の洋画を見ては、役者の名前を教えて貰って、誰々の演技が良いとか、誰其は顔が厭らしいとか、ここのセリフは覚えておこうとか、また見ようとか、来週はあれが放映されるぞとか、そういう話をしてた気がする。

チャールトン・ヘストンとか、クラーク・ゲーブル、ハンフリー・ボガート。
グレース・ケリーにビビアン・リー、ヘプバーンからチャップリンまで。

いまではもう──というか当時からほぼ「サブカル」の域にある古びた映画たちだったけども、それは取りも直さずエーコさんの「青春の残滓」であって──たぶん、俺もオヤジも、それらの映画が好きというより、エーコさんが幸せな時代の残り香に浸りながら、映画のうんちくを饒舌に語るのを聞いてるのが好きで、それらを楽しんでたように思う。
中でも我が家で何度もリバイバル上映されてたのは1930年代の映画である『風と共に去りぬ』だ。
俺が彼女の80歳のお祝いにDVDプレイヤーをプレゼントした際にチョイスしたソフトももちろんそれで、その日は気を利かせたオヤジの提案でお祝いに集まった親戚一同みんなでリビングに集まり、急遽、エーコさんを囲んでの上映会を開催した。
長い映画だけど、ラストシーンの『タラに帰ろう』のセリフまで、誰も席を立たなかった。
我が一族は、みんなエーコさんが大好きなのである。

だので俺はある時、将来は映画関係の仕事に就こう! と勝手に決意した。

その夢は自分の中から生まれたモノのように思ってたけども、今思えばエーコさんからインプリンティングされたものだったのかもしれない。
その話をエーコさんはとても喜んでくれたし、応援もしてくれると言ってくれた。
言うまでもなく我が家の主はオヤジ様よりもエーコさんだったんで、もはや夢に向かってひた走るのに障害など何にもないぞと思った俺は中学から高校までひたすら映画観ては脚本らしきものを妄想したりメモったり、ある時は友達の姉ちゃんから「オアシス」って名前のワープロを借りてちょっと書いてみたり。
『ビデオでーた』と『スクリーン』は当然毎号買ってたし、家から徒歩五分の所にある、家族経営の小さなレンタルビデオ屋なんか日に2回くらい通ってた結果すっかりヘヴィーな常連認定を受け、最終的には厨房のくせにツケが効くまでになってた。

で、高校になり、2年と少し後……いざ進路相談の段階になって「映画学校に行く金なんか我が家には1円もねぇ」という衝撃の事実を知ってあっさり折れた。

ごめんね、とエーコさんは言った。
自分で稼いでいきなさい、とオヤジは言った。

納得だった。
別に無駄に荒れたりしなかった。
ただ、学校行くのがスゲーバカバカしくなって、「映画学校とかボンボンが行く糞溜め」とか「群れてるカスに面白い作品なんざ作れる訳がねぇ」「俺は一人で目指すから別にいい」みたいな感じで──要するに分かりやすく「ひねくれた」。

んで俺が新たにチョイスした野望は「小説」の道だった。

厳密に言うと「手前で書いた小説を『誰かに映画化してもらう』」事。
つまり「映画を撮る」んじゃなくて「それに関わる」仕事をしよう。というものだ。
これなら撮影技術を学んだりする必要もないし、極めてエコ。地球にやさしい目的意識で大変によろしい。
んでモラトリアム男子の劣等感やらなにやらが意味不明な馬力を生み出したのか知らんが、それから3年後、(手前で学費稼いだ)大学の在学中、とある超大手の出版社の賞に、なんと俺が応募した短編小説がノミネートされたのである。
大賞賞金1000万円。
しかも書籍化&映画化つき。

映画化!

そう、この時俺は一回「サクっと夢を叶えかけた」。
応募総数3000くらいの中から10作くらいまで絞られてたし、主催社の編集長からも「これイケると思います」みたいな電話もあった。
これほんと行っちゃうんじゃねえかな! と思った。
折しもサミーの「ハードボイルド」全盛期。
人生初万枚達成と同じ年だ。
今年はなんか違う! 来たれ春! 俺の人生にプリマヴェーラ!

まあ結果として落ちたんだけども。

でもあまりにも簡単にリーチが掛かったんで、俺はそこで「頑張るのを辞めた」。
なんとそっから10年以上ちゃんとした小説書いてない。
ライター時代に短編小説をちょこちょこ売りさばいたりしてたけども、夢の為に何かを書く! とかそんな決意をもってペンを握った事なんざ、ホントない。
実は去年書こうとしたんだけども、完成しなかった。
今年もどうなるか分からん。
人生そんなもんだ。

でもまあ、思い返せば「そのうち小説で飯食えたらいいなぁ」と思いながら早15年以上。
夢が無かったらたぶん俺途中で死んでると思うし、そもそもが心が弱きことミーアキャットの如しなダメ中年なんで、おそらくどっか病んで病院入ってると思う。
叶える気があるのか無いのか良く分からん夢を糧にどうにかこうにか頑張って生きてるのです。
んでその夢を与えてくれたのはエーコさんで、そう考えると、俺は何からなにまでエーコさんに世話になりっぱなしだ。
ありがとうエーコさん。

さて。

そんなエーコさんだが、例の震災の日に電話があった。

「あんた、揺れたっちゃろ?」
と彼女は言った。
「うん。スゲー揺れた」
「そう。大丈夫ね?」
「大丈夫だよ。タンス倒れたけど」
「……怪我は?」
「ないよ。全然」
「ああ、良かったね。……頑張んなさいね」
「──ああ」

やや間を開けて、エーコさんは言った。

「お母さんには、会いよる?」
「うん。しょっちゅう」
「そうね。あんた、やっぱりそっちに行くとねぇ……」
「え?」
「ウチ、思っとったとよ。東京の方の子になるっちゃなかかねって」
「何を馬鹿な。俺はそっちの──婆ちゃんの──」

ちょっと言い淀んだ。
そういえば、全然エーコさんに連絡とってなかった。
この電話だって数年ぶりだ。
顔を見たのなんか大学の時以来だし、もしかしたらエーコさん、やきもちを通り越して、俺の事を忘れようとしてるのかもしれない。
一緒に過ごした期間は長いけども、それは「俺の主観」に過ぎない。
同じ時間でも、俺と彼女では人生の経験年数が違い過ぎるから、体感時間的に同じじゃない。
俺にとっては「人生のかなり長期間」でも、彼女にとっては「老後の一瞬」の時間なのかも。
そもそも俺は、数居る孫の一人にすぎないわけで。
なんで俺は自分の事をスペシャルだと思ってるんだろう。
過ごした時間の長さが彼女の中で大したことないものならば、俺が彼女を思うほど、彼女は俺の事を大事に思ってないのかも。

なんか、すごく怖くなった。

「ありがとね、○○○」

彼女はそう言って、俺は少し唾を飲んだ。
何かを言おうとしたけど、上手い言葉が出ない。
ただ、近い内に会いに行こう、と思った。

──彼女から名前を呼ばれたのは、それが最後になった。

●ユートピアに居るあなたへ。

先日の事だ。
マイハニー干支子ちゃんと旅行に行った。
場所は九州。
干支一周離れた彼女を連れていきなりのオヤジ家訪問だ。

オヤジは相変わらずだった。
干支子ちゃんは髪の毛を赤く染めた今風メイクの可愛らしい子なんだけども、オヤジの目には「よくやった息子よ。ナイスチョイス!」みたいな文章が電光掲示板よろしく映しだされてるのが、同じDNAを共有する親子としてバリバリに伝わってきた。
実際その饗応っぷりは身内として結構恥ずかしかったんだけども、まあ彼女も「すごい良いお父さんですね!」みたいな感じでご満悦だったんで、結果オーライ。
ただ俺が便所行ってる間に酒飲めない彼女にビール勧めまくるのはどうかと思うよ?
初日は「泊まれ泊まれ」とうるさいオヤジの誘いを笑顔でかわして外へ。
市内を観光したりなんやかんやした後ホテルに泊まり、そして二日目。
彼女をちょっとだけ一人にして、俺はオヤジの家に向かった。
理由は、エーコさんに挨拶するためだ。
彼女も連れて行こうかどうか迷ったんだけども、前日、オヤジがこっそり俺にだけこんな事を言ってたんで、置いていくことにした。

「○○○、婆ちゃんだけどさ、ちょっとボケてんだよね」

ちょっと、というのがどの程度か分からんので、俺は「ああそう」と言った。
んでヤなこと思い出した。
同じことを20年くらい前に聞いた事がある。
東京と九州とを行ったり来たりしながら寸刻みで生活してた子供時代の終盤だ。
3年ぶりくらいに東京に移動して、兄貴に空港まで迎えに来てもらって。
んで母ちゃんが居る下北のマンションのドアの前に立った所で兄貴が言ったんだ。

「○○○、母ちゃんだけどさ、再婚してんだよね」

ああそう、と俺は答えた。
嫌だな。と思った。
んで聞かされて10秒後にはドアの向こうの「知らんオッサン」に挨拶して、母ちゃんと兄貴が本格的に他人になってきたなぁとしんみりしたりした。
まあいいもんね俺はオヤジと婆ちゃんの家の子だし。
オヤジはちょっとアレだけど、婆ちゃんが居るし。
最終的にエーコさんの孫ってのが俺のアイデンティの一番根っこの部分にあるんだから、別に兄貴がイカれてようが母ちゃんが再婚してようがオヤジがダメ人間だろうが良い。しやない。そんなのしやない。どうでもいいもん。プイッ。

──そのエーコ婆ちゃんが、ボケてるだと?

婆ちゃんがずっと「入院中」というのは聞かされてた。
足の骨折ったそうだし、その治療だろうな、と思ってた。
もう三年くらい入院してるっつってたけども、まあ年寄りの骨はポッキーよろしく簡単に折れた上に全然くっつかないらしいし、そのくらい時間かかるのも頷ける話だよねと思ってたけども、オヤジに連れてかれたのは病院でもなんでもなく、川のほとりの、ちいさな老人ホームだった。

「……ちょっと。ちょっと待ってオヤジ」
「どうした?」
「老人ホームなの?」
「──うん」
「あれ? 病院じゃなくて? ボケてるって、え、そんなに?」
「まあ、日によって調子の波があるけど──」
「あのさ、俺の顔は?」

冗談めかしていうと、オヤジはちょっと神妙な顔になった。
珍しく、悲しそうな顔だった。

「どうだろうなぁ。分からんかもなぁ……」
「うえぇ!? 嘘だろ。そんなにか!?」
「うん……」
「教えてよそれ……もっと早くにさぁ……」
「お前に言ったって、良くはならないだろう?」
「この……」

ダメ人間が! と言いそうになった。
目をそらし続けてたんだよ。
俺がすげー勢いで悲しむの分かってて、言えなかったんだこの人。
それは優しさから出た悪手なんだろうけども、いずれ確実にくるショックを耐え難い重さにする致命的な先延ばしだよ。

「いこう。とりあえずいこう」
「ああ。ちょっとそこ、スリッパあるから、履いて──」
「なんか書かなくていいの? 来客のアレとか」
「無いよそんなの」
「なんでだよ。セキュリティどうなってんだここ。移そうぜ場所!」
「なんだそれ……。なにカリカリしてんだ?」
「してねぇよ。してない。してないよ──」

ただもうちょっと早く教えて欲しかっただけだ。

狭い廊下を抜けると、広いリビングみたいな場所に出た。
奥にはバルコニー。造花か生花か分からないけど、色とりどりのチューリップが咲いた庭。垣根の向こうの──午前の日差しの奥のほうに、今しがた降り始めた雨が見えた。
天気雨。狐の嫁入りだ。
美しい光景だった。
長椅子が2つあって、年寄り連中が飯食ってる。
エプロン姿の女性が何人か年寄りの食事を補助しつつ賑やかに談笑してたけど、俺の姿を見るやピタリとそれをやめ、続いて入室したオヤジの顔をみるや合点が言った様子で「○○さーん」と、我々の苗字を呼んだ。

呼ばれた老女がきょとんとした顔で此方を見る。

目が合った。
胸が詰まった。
エーコさんだ。
この時点で俺はもう滂沱していた。
泣けて仕方なかった。
凛とした、矍鑠とした婆様の面影はそこには無かった。
あどけない、無邪気な笑顔をした、車いすの老婆。
可愛らしく年老いた、枯れ葉のような女性だった。
オヤジが手を降る。

「おかあさん、○○○を連れてきたよ。分かる?」
「ああ──ああ──。ご無沙汰ねぇ!」

介護師さんに車いすを押されて俺の目の前まで来ると、エーコさんは破顔した。

「ばあちゃん。久しぶり。元気?」
「うん。元気。あんたは……。あれ。あんた……ああ──あれ?」
「○○○だよ、お母さん。ほら」
「ああー……。どうも。お久しぶりです」

敬語だった。
ダメだもう。と思った。
この人は俺のことを覚えてない。
衝撃だった。

「何泣いてんだお前──。ほら、あっち、あっちがお婆ちゃんの部屋。いくぞ。車いす押してやれ」
「あ。ああ──分かった」
「あらら、すいませんねぇ」

エーコさんの「部屋」は小奇麗に整頓された、四畳ほどの広さの洋室だった。
俺とオヤジはベッドに腰掛け、エーコさんは車いすに座ったまま。
テーブルを挟んで向かい合った。

「お母さん、○○○だよ。分かるだろ?」
「○○○?」
「ずっと一緒だったじゃないか。分かるよ。分かるさ。ホラ、幼稚園の時とか、いっつも手を引いて──」
「うーん?」
「お母さんが仕事に行くのがヤダって。仕事用のハンドバックの持ち手をハサミで切ってさ。いたずらっ子で大変だったろう。かわいがってたじゃないか。お婆ちゃんお婆ちゃんって後ろをついて回ってさ──」

オヤジ頑張るの巻。

「うーん。ああ、橋本さん?」
「誰だよ橋本さんって……」

あしの、橋本さんに負けるの巻。

オヤジはその後も色々なエピソードをエーコさんに語るも、何一つ彼女の心には響かず。
分かった事は「彼女がずっと温泉旅行に来てるつもりである事」と「意外なほどカラっとしたボケ方をしてる事」そして「ボケる前よりも声のトーンがオクターブ単位で高くなってる事」だった。

「うーん、橋本さん、お母さんはどうしてる?」
「俺橋本さんじゃないよう……。なに、母ちゃん? ああ、東京の?」
「東京から来たと? 遠かったろ?」
「二時間くらいで着いたよ……。それより婆ちゃん俺、橋本じゃないよう」
「お前もう泣き止めよ。慣れろ橋本」
「五分かそこらで慣れるかよう……橋本じゃないよう……」
「ったくいい年して……お前なんか話せ。折角来たんだから。つぎが──」

あるかどうかわからないんだから。
飲み込まれた言葉を先読みして、そして頷いた。
確かに、結構な高確率で、これがエーコさんとの最後の時間になるだろう。
勿体無い。
と思った。
何か話さなければ──。
何か──。

「ここは良か旅館よ」

オヤジと、婆ちゃんと、俺。
思い返せば三人で同じ部屋にいるのって、いつ以来だろう。
何だか懐かしい。
なんか、思い出してきた。

「でもあんまり長かけん、家に帰りたくてねぇ……」

帰る。
家。
三人だ。
家族三人で家で。
映画だ。
俺たちは良くこうやって──。
ああ、そうか。
ピッタリなセリフがあるじゃないか。

「じゃあ婆ちゃん。タラに帰ろう──。帰ってから、レット・バトラーを取り返す方法を、考えよう……」

オヤジが黙った。
それは婆ちゃんがこの世で一番好きな映画『風と共に去りぬ』のラストシーンのセリフだった。

エーコさんの顔を見ながらもう一度言った。
ボロボロ泣きながら。
吐きそうになるほど嗚咽しつつ。
祈るように。

「タラに帰ろう。ね、婆ちゃん」

ややあって、婆ちゃんは屈託なく破顔した。
年齢的超越。多幸感。
苦しみも痛みもない、永遠の温泉旅行。
ユートピアの住人になってしまった婆ちゃんが見せた、ボケ老人ならではの──天使の微笑みだった。

「──あなた、クラーク・ゲーブル、好きなの?」

エーコさんだ。
やっぱりこの人、エーコさんだ……。
俺の名前は忘れちゃってるけども、好きな映画のことはちゃんと覚えてくれてる。
きっと俺達三人で、家のリビングで見た映画の事も、心のどっかに残ってる。
俺やオヤジの顔は黒いインクで塗りつぶされてるかもしれないけど、輪郭や──色調や──、あるいは、音や、匂いや、ワクワクする気持ちや、感動や、空気感や雰囲気はきっとどこかに残ってて、何かの拍子にこうやって、表に出てくるんだろう。
なんか妙にうれしくて、エーコさんの事を抱きしめたい衝動にかられた。
ふと見ると、オヤジもグッと来たらしく、目の周りが赤くなってる。

「おい、○○○。手ぇ握ってやれ。ほら」
「い、いいの?」
「良かですよ」
「良いってさ。本人も言ってるし。敬語だけど。あと写真とれよ。とって、お前のお母さんや兄ちゃんにも見せてやれ」
「やだ。見せない」
「なんだそりゃ──」

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●さよなら三角またきて四角。

この日は実際、たぶん人生で一番泣いた。
マジで言うけど、おそらく俺エーコさんの葬式では一切泣かないと思う。
それくらい滂沱した。
んで俺、なんかこの日を境に創作から離れてた。
連載の方は金が発生してるんでちゃんと書いたけども、ブログはどうしても書く気にならなかった。
理由はシンプルで、何書いても納得できる形にならねぇと分かってたからだ。
このエントリ──つまりはエーコさんについて書きたかったんだけども、何書いてもたぶん批判は食らう。
なのでどう書いていいか分からなかった。
批判食らう理由。もちろん分かってる。

それは「俺が彼女の介護を一切してないから」だ。

彼女は実際、俺が胸を張って唯一「育ての親です」と言える人物だし、慕情というか、親愛の情が非常に強い人物であるのだけれど、これだけ離れておいてどの口が抜かすかみたいな感じがすげーある。
老人と痴呆の問題なんぞありふれているがゆえに、どの方面に石を投げても「俺のほうがもっと強烈だっつうの」みたいな状況の人ばっかりだろうし、そもそもこの加齢臭ブログの読者の大半は、そういう問題に直面してるかしつつある年齢の人々だろうしさ。
エントリとして美談めいた形で書くのって、相当な勇気が必要だった。
まあ別に美談にするつもりなんざねぇのだけども、結果として俺の中では「会って良かった」という思いがとても強いので、もしそう読めるのであれば、たぶんその感情は俺がこの時受けたものと一緒だと思う。ありがとう。

でもやっぱ実際に介護の現場で修羅場をかい潜っておられる方からは絶対良い印象無いと思うんで、そこは謝っときます。申し訳ありません。

別に「ボケは美しい」とかそういうおためごかしをいうつもりは無いです。自分。ボケないならボケないが最強だし。人間の死に様としては記憶をシャッキリと保ったまま、一族に訓戒を垂れつつ畳の上で大往生というのが理想だろうし。
なので「ボケた」という時点で人生の終末のありようとしては多分負け組なんだろうけども、それでも俺は敢えていうよ。

介護もなんもしてねぇ、遠く離れたおばあちゃん子が、たった一日だけ接したボケ老女は、とても明るくて、幸せそうだった。

これに関しては付いてくださってる介護師さんと、それからオヤジや親戚のオバちゃんの努力の賜物なんだろうけども、ホントに心から頭を垂れるよ。
ありがとうございます。本当にありがとう。マジで尊敬します。俺には絶対できねぇ。
婆ちゃんを永遠の温泉旅行に連れてってくれてありがとう!
ありがとう!

しかし、今後はいよいよ俺もオヤジの介護とかを念頭にして生きてかないと行けない訳で。
そもそもが他人ごとじゃねぇんだけども、アレだな。ちゃんと生きねぇとな。マジで。

と、3ヶ月サボって初っ端にボケ老人問題を取り上げる「スロブログ」。

これどうなんだろう。
まあいいや。

読者の皆様におかれましては、おまたせしちまって申し訳ありませんでした。
生存を危ぶむDMとかも飛んできておりますが、個別に対応させていただきます。
また精神的にヤラれた際はいきなり長期のチャージ期間にはいるやもしれませんが、ひとまず復活したします。

今後共よろしくオナシャス!

あしの

 

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いざ今生の──! への34件のコメント

  1. エレン より:

    あしのさんの身に何かあったかと思ってました。
    何かあった訳なんですけれど、この話は何とも言えませんよね。
    先日、僕もいろいろとあったんですが後悔ばかりが残る結果になりました。
    ただ、幸せそうなのが何より救いかと。

    ほんと、何とも言えませんよね。

    • あしの より:

      エレンさん!
      チワッス!
      ホント、考えると結構落ち込むんで、なるべく良い方向に捉えるようにしましょうね……。
      マジで、幸せそうなのが救いでした。
      カラッとしたもんでしたよ……。良いボケ方、と言って良いのかなこれ。
      今後共よろしくオナシャス!

  2. たっしー より:

    あしのさんとTwitterでばあちゃん話をしたのが遠い過去に感じます…。生きてて何よりですよ!!!

    人生は出会いと別ればかりで、歳を重ねると別ればっかりになってきますけど、別れをただの別れにしないで自分のなかに残せるようにしましょ!

    僕は!干支子ちゃんとあしのさんの濃厚ちんまんストーリーが読めるまで!このblogを読み続けます!!!

    • あしの より:

      たっしーさん!
      チワッス!
      その節はどうも……!
      そう、まさにあのツイッターの件ですね。
      アレはリアルタイムでした……。
      そして干支子ちゃんとの濃厚な……! いや、書けねぇww
      エロ要素は別方向でぶっ込んで行きたいと思います!
      今後共よろしくオナシャス!

  3. ちゅん より:

    私も風去り好きです。タラの土をぎゅっと掴むシーン、たまに思い出します…

    記憶喪失は最も大事に思っていた人を忘れちゃうみたいですが痴呆の場合どうなんですかね?
    介護は出来なくても又会いに行ってお話してきてくださいね。
    橋本さんとしてでも良いじゃないですか♪

    • あしの より:

      ちゅんさん。
      チワッス!
      風去り……。いいっすよねぇ。あとエーコさんは「カサブランカ」とか好きですね。
      あー、また会いに行きたいけども、次はいつになるやら。
      なるべく早めに行きたいと思います!
      イエア!

  4. より:

    いやぁお久しぶりです。お元気そうでよかったで。入院でもしてんのかとアキバのマコさんに尋ねたりしちゃいましたけど三ヶ月も経過していたとは。戦コレ2出る前かー!

    記事内容については書き出すと長くなるのでなるたけ略しますが
    今回の「会いにいく」話こそ短編として仕上げて、公開なりなにがしかの賞に投稿してはいかがでしょう?あしのさんの人生の中でかなり大きなイベントだからこそ。

    自分の人生も一つくらいはなにかのめり込んで他人に語れるモノ用意したいですねー。

    • あしの より:

      まさん。
      チワッス!
      マコリンもきっと不審に思っておったでしょうなぁ。
      マジで沈黙してましたからね!
      しかし確かに、すげーデカイイベントでした。
      衝撃でしたねぇ……。
      これを肥やしに何か書ければ良いのですけれど。
      これからも頑張ります!

  5. ゆうまる より:

    あしのさん復活!

  6. cktk より:

    お久しぶりです、コンバンワ!
    めっちゃ待ってましたよ
    しばらくぶりの記事なのに、やっぱりあしのさんの文章は定期的に心をガンガン揺らしにキますね
    僕は祖父を自宅で看取ったんですが、叔父も親父も兄貴も姉貴も覚えてるのに自分だけ忘れられてて毎日違う名前で呼ばれるってなかなかに異次元な経験でしたよ
    でも今にして思うとじいさんは僕を通して自分の人生のハイライトを観れたから幸せだったんじゃないかと思ってます
    スクリーンがなければシネマは成り立たないって考えると結構悪くないですよね
    長文失礼しました、これからもがんばってください!

    • あしの より:

      cktkくん!
      チワッス!
      おお……いいこというなぁ。
      スクリーンか。なるほどなぁ。橋本さんとの思い出が俺に投影されましたか……!
      おう、これからも頑張るぜ!
      よろしく!

  7. 砂金 より:

    あしのさーん!ちわっすー

    かくかくしかじか……あったんですね。ひとまず彼女とうまくいってて嬉しくなりました。

    久々にブログの更新があって、GW明けの憂鬱さが軽減されましたよ~

    • あしの より:

      砂金さん!
      チワッス!
      よかった! 憂鬱軽減良かった!!
      彼女とはかなり上手くいってます!
      仲良し! イエア!
      今後共よろしくオナシャス!

  8. スケッチ より:

    チワっす!!
    更新ねぇなぁと思って毎日覗いてましたが、そんな理由があったんすね
    自分看護師してるんで痴呆には色々思うことはありますけど、本人幸せそうならいいのかなーと
    ちなみに僕もお婆ちゃんっ子!!
    ゆっくり更新でいいんで待っとりますー

    • あしの より:

      スケッチさん!
      チワッス!
      看護師さん……すごい……。
      血の繋がった家族の世話ならまだしも、キツそうですねほんと……。
      おばあちゃん子! イエア! 仲間!
      今後共よろしくおなしゃす!

  9. 名無しの5円スロッター たまに1円パチンカー より:

    漫画とゲームと映画とドラマと音楽…優雅だな…いや、スロは入らんのかい!!

    これなぁ…ボケた親族が全く居なくて、自分はその気持ちわからんのですよ。

    ただ、昔の派遣バイトで終末医療の病院の病室のカーテンを全て取り替えるというバイトをしましたが、言葉が悪いですが、「人間の脳って、ここまでおかしくなるんか?」と絶望しました。自分がPTSDになるんじゃないかと思うくらい精神やられました。たった2日で。

    その点ではエーコさんは、人は忘れていますが生活する上で問題はない(もちろん介護は必要ですが、暴れたり、他人に危害は加えないので)ようなので、まだまだそこから先へは進行しないでしょう。いまは薬も進んでいますからね。

    うちは、ジジババ全滅してんからなぁ…( ‘ω`)

    さて、スロは小説も実践もネタも期待しております。

    • あしの より:

      ごすろたまいちさん。
      チワッス!
      スロ、最近ほんと頻度が減りました……。
      マジでモンハンと銭形しかグッとくる台がないかも。
      あとハナビ。ああ、黄門ちゃまもいいなぁ……。
      あ、結構打ちたい台あったw
      今後ともよろしくお願いしますぜ!

  10. アキバのまこ より:

    待ってたよ。

  11. はるまひろ より:

    かなりお久しぶりです。
    東京から引っ越しして、早1年。ワンダガであしのさんの姿を、タバコを頼りに探してたのが懐かしく思えます。ブログ復活万歳!
    ちなみに、俺もばーちゃん子で、呆けて病院に入ったときに、ヒロシ君と呼ばれてやるせない想いになったのが鮮明に記憶に残ってますわ。親戚連中にヒロシは一人もいないんだけど。
    まぁ、ばーちゃんがヒロシ君というなら、その時はヒロシ君ということにして過ごしたのだけども。
    これからも更新楽しみにしてます!

    • あしの より:

      はるまひろさん!
      チワッス!
      おひさっす!
      なるかしいですなぁ! また連れ打ち行きたいもんですね!
      タイミング合ったらぜひぜひ! イエア!
      ばーちゃんこ最高!

  12. ゆうまる より:

    とりあえずこれだけアップされてなかったのにこれだけのレスがくるのはすごいですね。さすがカリスマ!

    • あしの より:

      ゆうまるさん!
      チワッス!
      カリスマ……! ああ、ホントにそうなれれば最高なんですがねぇ!
      そしてみんなのおかげで続けられてますホント。
      ああ、あったけぇ……!

  13. FAT より:

    生きてて良かったッス…

    • あしの より:

      fatさん!
      チワッス!
      うお、なんでかfatさんのコメがスパムフォルダにブチこまれててわろた!あぶねえ!
      イェア!生きてました!
      今後ともよろしくです!

  14. チャラブティ より:

    お!お帰り。(本人のブログだが)

    自分は親、実家は同じ市内だけど、一人暮らしをしてあまり連絡もしないで、
    必要なときだけ連絡して、たまーになんか買ってプレゼントしたりして、
    結婚はしてなくて。

    色々思ってることはあるんだろうな。

    俺は人(親)の気持ちを見て見ぬふりというか、わかってないといか、わかろうとしてないか
    逃げているか。
    四の五の言わず親孝行をすればいいんだろうけど。

    あらためて考えさせられましたよ。

    • あしの より:

      チャラブティさん!
      チワッス!
      ただいまです!
      親孝行……。改めてやろうと思うとなかなか難しいですよね。
      何やっても一時しのぎというか、他人行儀みたいな感じな気がしますし。
      やっぱしゃんとした生活して、日頃の態度で「しっかりやってるよ」ってのをアピールするのが、何よりの親孝行なんじゃないかなと最近思ってます。
      今後共よろしくオナシャス!

  15. シゲオ より:

    ずっとあしのブログを楽しみにしていた一人です。

    そして、このエントリ。泣いた。

    実際、何か引っかかる部分があるのかもしれないけど、僕としては、
    今の現代の生き方をまさに象徴しているのかなと思いました。

    僕は残念ながら、婆ちゃんと呼ばれる人たちと触れ合う機会がそもそも少なかったので
    未だ健在のばあちゃん達がボケたりしても、ちょっとさびしいな位かと思いますが
    あしのさんのダメージは・・・。

    もちろん、なんでそうなるまで・・!とか、たまにはなぁ・・!とか
    罵詈雑言浴びせる人もいるかもしれませんが、あしのファンとしては、全くありません。
    安心してください。

    充電期間があったこと。それをもって、書物のレベルが上がっていること。
    いいじゃないですか。

    エーコさんの為にも、小さいころの自分の為にも。
    映画化されるような小説、楽しみにしてますよ。

    ・・・・もちろん、スロねたもね!(最近もう引退しちゃったんだけどね。)

    • あしの より:

      シゲオさん!
      チワッス!
      泣きましたか──! おお…なんか有り難いです。
      婆ちゃん、実際に居ると色々心配で切なくなるんですけども、居てくれて良かったとホントに思います。
      オススメです。婆ちゃん。なんのオススメか分かりませんが。
      そして物書きレベルがアップですと! お、マジですか! やった!
      ありがとう御座います!
      え、スロ引退? フフフ。アクロスのハナビ面白いですよ……!

  16. サンギス より:

    うちのばあちゃんもボケてしまって、じいちゃんが死んだ事も自分の事も忘れてます。

    どこかに連れて行ってもおじいちゃんは?と5分おきに聞かれ、亡くなった事を教えの繰り返しです。

    https://m.youtube.com/watch?v=tIudBRsTOw8

    このCMの様に美しいストーリーがあればいいのですがね…

    • あしの より:

      サンギスさん!
      チワッス!
      うわヤバイこれ……。
      なんてものを見せるのですか……orz
      めっちゃいいですこれ。このCM。
      銀の皿凄い。教えてくれてありがとうございます!!
      マジで感動しました。

  17. サンギス より:

    へべれけで酔っ払って家で銀の皿のCMを見て笑っていたら毛色の違うものを見つけてしまったものです(だいたいはネタCMなので)

    これを見た時にやっぱり自分に投影してしまい、アホみたいに泣いてしまいました。

    今は施設にいますが、施設に入れる前は親族でばあちゃんを一日おきに監視していたのですが、徘徊したりじいちゃんを探したりとにかく大変だったもので、前半の空気感がリアル過ぎて…

    同じ境遇を持つものとして是非見ていただきたかったのです。

    • あしの より:

      サンギスさん!
      チワッス!
      いや、このCMはマジでダメ。激泣きです。すごいこれ。
      前半の空気感、ああ……。やべえ。
      ホント、良いものをお教えくださいました……。
      ありがとうです!!

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