【心の名画】耳をすませば

<※注意 このエントリは当ブログ更新停止中にこっそりやってた映画ブログからの流用です。「あしの」じゃないキャラになろうとしつつ、引きずってる様子をどうぞお楽しみください>

三行で分かる『耳をすませば』

・気になるあいつには夢があるらしいの。
・だから私も夢を探すの。
・頑張って大人の階段のぼるの。

高校時代の話だ。
俺はギター・マンドリン部という所に所属していた。
ギター。
これはわかる。
ギュイーンっていったりビヨーンっていったりする、六弦のイカした楽器だ。
問題は後者。マンドリン。
なんだよマンドリンて。
ドリンて。絶対なんか流れてる。ドリンて。

ドリンて!

んで俺の同級生にはK君という男がいた。
ドイツ人のクオーターだそうで、確かにそれなりに整った顔をしてたと思う。
彼もまたギター・マンドリン部に所属しており、更には俺は彼と三年間一緒のクラスだった。
んで俺は彼と高校一年の夏休み、一緒に映画を見に行った。
それがこれ。
「耳をすませば」だ。
もはやホモの領域。

今回はそんな話。

●ヘイトが溜まる。

「耳をすませば」。以下「耳せば」。
これ、日テレの映画枠で毎年一回は放映されてるから観たことある人もすげー多いと思うけども、どうなんだろう。
みんなこれ見終わった時どんな顔したのか純粋に聞きたい。
察するに2パターンだと思う。

・ニヤける。
・激怒する。

たぶんどっちかだ。
ちなみに俺は前者だった。
理由は簡単で当時はそれなりに未来に希望を持ってたから。
今見たら下だと思う。
要するにこれは完全に「現在進行形でハッピーな人」か、あるいはその為に頑張ってる人か、もしくはそれに準ずる前向きなメンタルを持って日々を過ごしている人向けの映画であって、そうじゃない人にとってはグサグサ刺さる。
かつてGACKT(ガクト)がどっかのインタビュアーとのやりとりの際に「10年後の自分はどうなっていると思いますか?」と聞かれた時、「眩しくて見えない」と答えたらしいけども、「耳せば」はそれに良く似てる。

この映画の登場人物はすげー簡単に夢を見つけて、実際に努力して、そして叶えるための土台に足をかけるか、あるいは誰かに認めて貰う。
超有名なラストのセリフにしても、一気呵成というか、一足飛びで大人の階段を駆け上って「いっちょまえの大人になる」。
ハイパー眩しい。
筋肉フラッシュ並だこれ。

挫折を知らない人や、あるいは今まさに目標に向かって邁進している若い衆ならいざ知らず、大抵の大人は夢破れて呻吟した経験があったり、刀折れ矢弾も付き果てて眠るしかない状況になったことがあるわけで。
つまり、見えざる大きな手のふるいにかけられて──その網目の隙間から零れ落ちた大半の「大人」にとっては、この眩しさは、カップルの彼氏の方が延々と彼女の尻を揉みつつ、二駅くらいずっと同じペースで目の前を歩いてるのと同じレベルでヘイトが溜まるのだ。

この映画が「鬱アニメ」に分類されてるのは、要するに見る側の大人の大半が薄汚れてるからだと思うのです。

●コントラスト。

一方で前述の如く、高校の頃の俺はこのアニメを見て素直に「いい映画だったな」とか思った。
汚れてなかったからだ、とも言えるし、なんか色々頑張ってたからだ、とも言える。
あるいは、挫折を知らなかったり、まだ自分の背中には翼かなんか生えていて、その気になればどこだって飛んでいけんだぜ的な、モラトリアム全開の(根拠不明な)優越感を持ってたからかもしれない。
自分の目の前の可能性は無限大だし、実際、その時から何か頑張っとけば今頃電気屋で「シャセーっ!」とか言ってないと思うんだけども、まさかこうなるとか爪楊枝の先っちょほども思ってない訳で。

「あー、俺もマジで頑張ろう! さくっと夢叶えっか! おっと、たまごっちにご飯あげなきゃウフフ」

みたいな事を、半ケツ見えそうな腰パンで爽やかに思ってたりしてたと思う。
いやーまさかそっからこうなるとは。
何がたまごっちだよクソックソッ!

んでそういう「クソックソッ!」みたいな気持ちがイコール「成長」なわけでして。
すれっからしになればなるほど大人ですとか、そういう拗ねた事を言うつもりはないけども、もっと正確に言うなら、ちゃんと地に足を付けて、等身大の生活をリアルに歩いて行く「決意」みたいなのが備われば、いやでも上記の如きヌルい希望的観測は否定されてしかるべきなのだ。
なんかもう夢も希望も無くてアレだけども。

さて、確か23歳とかそのくらいの頃だ。

当時俺は大学を休学して通信会社で営業のバイトしてた。
真夏だった。
滴る汗をハンドタオルで拭って、田舎の方の個人宅をゴリゴリと絨毯爆撃してはハガキ型の申込用紙に名前とかを記入してもらって、それを営業所に送る。
そんなバイトだ。
給料は良かったが人生という名前のレースにおいては「休め」の体勢と同じだった。
暑すぎて死にそうだったので、エアコンの効いたホールでパチスロ打って三万ほど負け、台にポフンと軽い頭突きをしてから公園でガリガリ君を食った。

「すいません。ちょっと──」

と声をかけられた。
振り返ると、金髪ロンゲのなんちゃってイケメンが居た。
K君だった。

「おお、やっぱり、シロ君じゃん。久しぶり」
「うわK君かよ。懐かしいな。五年ぶり?」
「高校以来だから──そうだね。元気?」
「ああ、まあ。……お前は?」
「元気だよ。元気」

そういうと、彼は肩にかかる髪の毛をファサっと手の甲で払う仕草をした。
やけに芝居がかってんな、と思った。
余談だが俺は友達から「シロ君」と呼ばれてる。
そういうアダ名なんだから仕方ない。

「久々に会ったし、よかったらコーヒーでも飲みにいかない?」
「まあ仕事中なんだけども──いいか。よし、行こう」

空調の効いた喫茶店。
到着したキャラメルマキアートを胃の腑に流しこみつつ、互いの近況報告をした。

「へぇ、営業のバイトかぁ……。大変だね」
「別に大変じゃないけども、暑いよね毎日。痩せるねこれ。ますます」
「あはは。そっか──」
「お前は? 何やってんの今」
「え、俺? 俺はねぇ、今ねぇ……」

そういうと彼は勿体つけた動作で名刺入れから一枚の紙を取り出して俺に寄越してきた。
片手で受け取って、くわえタバコで眺める。

「○○芸能事務所……」

ご丁寧に、K君の本名をもじった芸名の横には「タレント」なる肩書が銘打たれていた。
ねめつけるようにK君の方を見やると、ファサッ……と、肩に掛かった金髪を裏手で払う動作を、例によって勿体つけた感じでやってた。

「へぇ。そか。タレントか。頑張れ」
「うん。大変なんだぜ、タレントも」
「そうか。頑張れ」
「うん。こないだなんかね、テレビ局のお偉いさんのあいさつ回りでさ。疲れたよ」
「そうか。うん。頑張れよ」
「うん。なんていうか、レッスンとかも結構疲れるんだ」
「なるほどな。頑張れな」
「うん──」

なんか今の状況を話したくて仕方がないのが見え見えの旧友を見やりつつ、キャラメルマキアートを流し込み、こいつこんなにイケ好かねぇ奴だったか? とか思った。
んで直後──唐突に俺は理解した。
これ「耳せば」だ。
俺は今、K君が眩しくて疎ましい。
要するに自分のショボさとのコントラストが痛くて直視できない。

K君がイケ好かないんじゃなくて、K君の状況が、頑張ってる姿が直感的に厭なんだ。

そしてその「耳せば」を観た時にK君と一緒だったことと、そして当時はそれを「面白い」と思った事を同時に思い出し、なんだか感慨深い気持ちと一緒に、とても擦れた気分が胸元で膨らんだ気がした。
それが「大人になる」事とほとんど同義である事はもうちょっと後になって気付くんのだけども、当時の俺は何となくショックを受けて、同時に何だかシニカルな気持ちになった。

なんかK君に悪いな。
頑張ってんのにな。
とか思って、もうちょっと応援しようと思った。

頑張れ、K君。
今は辛いかもしれないけれど、一年後か、二年後か、もしかしたら五年後には、キミはきっとスターになってるよ。
そうしたらキミは俺なんか街で見かけても、きっと声なんて掛けちゃくれなくなるんだぜ。
だから今は……キミがまだ俺の事を友達だと呼んでくれてる間は、俺は昔のまま──……「耳をすませば」を面白いと思っていた、高校生の頃の俺のまま、同じ感性で、同じ目線で、同じ気持でキミと居よう。

頑張れ!
K君!

この気持をどう表現していいか考えながら、なんだか明るい気分でK君と向き合ってたら、五分後には彼はおもむろにマルチの勧誘してきた。
え! と思った。
全力で断った。
それ以来彼とは会ってない。
もちろんテレビは愚か、雑誌でも見かけて居ない。

そういう訳で、俺は今でも日テレで「耳せば」の再放送がある度に、K君を思い出すのです。

以上!

 

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【心の名画】耳をすませば への2件のコメント

  1. 名無しの5円スロッター たまに1円パチンカー より:

    コンクリートロードですな。確かに、数年ごとにタイミング合うと見てマクロスのパチンコ打ってたアキバのまこさんみたいなこんな顔( ‘ω`)してましたわ。

    ハンマープライスで父親役の中の人の権利買ってたの見たなぁ、懐かしい。

    海がきこえるのが個人的には好きでしたね。

    • あしの より:

      ごすろたまいちさん!
      チワッス!
      あ、ありましたねハンマープライス。懐かしい。
      そうだ、あれなんか出品されてましたねぇそういや。
      今のジブリからは考えられないフランクなPR。
      良い時代でした!

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