去りて儚き

チワッス。ご無沙汰してますあしのです。
色々報告があるのでさらりと。
まずは環境の激変について。
この春から営業職になりました。
しかも飼い主は外資。
仕事内容がいままでと変わりすぎて、ついていくのが精一杯という感じです。
馘にならないように頑張ります。

つぎ、サイゾーさんがやってるギャンブルジャーナルという媒体で、連載が始まっております。
内容は当ブログの読者さんにとってはお馴染みの「人間模様」カテゴリみたいなやつです。
アドレスはこちら。
すでに四回分の連載はアップされておりますので、未読の方はぜひどうぞ!
どっかのメニューから「パチンコ」「パチスロ」を選ぶか、サイト内検索で「あしの」でやれば出てくるかな?
それから、パチ7さんという媒体でも勝手に連載してます。
アドレスは上の赤文字のところをどうぞ!

さあ次。ここが本題。

我が敬愛するエーコばあちゃんが危篤ということで電話があり、長崎行って来ました。
言わずもがな、最後のお別れです。
前日譚とも言うべきエントリが此方にあるので、未読の方はこっちからどうぞ。
今回はその続報になります。

読みました?
じゃあですます調もここまでだから。
続きいくポン。

●蝉の夢

環境の激変で、とても厭な感じになってた。
なにがどう厭かというと、あくせく、せっせこせっせこ。追い立てられるような気分というか。俺は基本的に土中の蝉みたいな、感情の新陳代謝がスローモーなオッサンなので、例えば年末のソワソワとか、花火の夜のワクワクとか、クリスマス、ハロウィン、その他有象無象に感じる「何かしなきゃ」みたいに急かされる感じが、あんまり好きじゃないのである。
仕事が変わって、覚える事が多くて。毎日が新しい事の繰り返しで、気の休まる暇がなくて、気がついたら、恋人の事をちょっとないがしろ──後回しにしてた。
モンハンもここの所あんまりやれてないし、電話も随分してない。
これじゃいかんと、俺は彼女に電話した。コミュニケーションを取るべきだと思った。
二十分か、三十分か、もしかしたらもう少し長い時間──彼女が仕事終わりに、駅から家に帰るまでの間、たっぷりお話して、とてもリフレッシュした。楽しかった。
今夜はキミの夢が見れそうです。
そう言って電話を切って、実際に見たのはなぜか「蝉」の夢だった。

家の中に蝉が居て、じっと、壁に止まってる。
ベッドに腰掛けて、くわえタバコのまま、俺はその蝉を眺めてる。
たったそれだけの夢だった。

「昨日、キミの夢を見ようと思ったら、蝉が出てきたよ」
「え、わたしシロさんの中で蝉だったんですか。みーんみーん」

急かされるような気分で仕事に向かいながら彼女とLINEでそんな遣り取りをした直後、携帯電話に電話があった。
みると、長崎の親戚からだった。
軽く舌打ちした。

奨学金の事だと思った。

その親戚は俺の大学の奨学金の連帯保証人になっていて、その返済を、俺は一ヶ月シカトしてる所だったのである。なんでシカトしてたかというと、環境が変わったから。要するに毎月交通費の建て替えが五万とか六万とか、あるいはそれ以上になるので、具体的な支出の計算が予測できなかったからだ。現金はなるべく多く確保しときたい。じゃあ奨学金は後回しでいいや。という判断だ。
たった一ヶ月で督促かよ奨学金。面倒くさいな、と思った。

「はい。シロだけど」
「あ。シロ? わかる? オバちゃんだよ」
「分かるよ。番号出てるもの」
「あのね、もう聞いた?」
「いや、聞いてないけど、分かってるよ。来月二ヶ月分払うから。悪いね」
「あら、聞いとらんとね?」
「──奨学金だろ?」
「うんにゃ──」

うんにゃ、というのは長崎弁で「違う」という意味だ。
そこで俺は、ふと厭な気持ちになった。
奨学金以外で電話なんかあるわけないのだ。親戚から。親父じゃなくて親戚から。
親戚の家は、お婆ちゃんが入所してるホームのすぐ近所。だから何かあったら──お婆ちゃんの容体が悪くなったら、親父よりも先にこの親戚に連絡が行くようになってる。
絶望的な気分になった。

「──エーコ婆ちゃん、なんかあったの?」

ちょっとだけ沈黙があって、それから根っから明るい田舎のおばちゃんは、アハハと笑った。

「もう、100歳やけんね。あっというまさ。一昨日具合が悪くなって、今はもう、ようやっと息だけしよらすと──。まだ生きとらすとよ? でも、いきなり死んだって連絡してシロがビックリせんように、一応ね。連絡したとさ」
「……一昨日?」
「そう。一昨日」
「──そう。ありがとう。すぐ行くよ」
「え? 来れるの?」
「行くさ。行くよ。行くに決まってる。一昨日知ってたら一昨日行ってたよ。なんでもっと──」

早くに。と言いかけて、口を噤んだ。
シロはもう東京の子。随分前からそう思われていて当たり前だった。
遠慮があるのだ。親戚にも。俺にも。あるいは親父にだって。
死んだ、という報告じゃなくて、死にそう、という連絡だっただけでも、オバちゃんには感謝しなければならない。

「とにかく、到着は明日になると思うけど、いくから。親父にも伝えといて」
「わかった。無理せんごとね」
「無理なんか──。知らせてくれてありがとう」

電話を切って、まずどうすればいいか考えた。
会社への報告が最優先。そう決めて事務局に電話すると、相手はすぐに対応してくれた。
5日間の休暇。それが無条件で提示された期間だった。十分である。ありがとうございます。そう告げて航空機チケットを取って、向こう一週間の、飲み会やらなにやらの予定を全部キャンセルして、仕事を終わらせ、夕刻に家に帰って、荷造りして、なんだか落ち着かない気分になった。じっとしてると気が滅入って仕方なかったので、なんとなく撮りためてあった録画から「ガキの使いやあらへんで」を選んで黙って見た。
内容は全然頭に入ってこなかったけど、途中で「なんで俺は婆ちゃんが危篤の時に浜田ばみゅばみゅを見てるんだろう」という気持ちになって、逆に楽になった。

大往生である。
老衰だ。

病気で苦しみながら。あるいは外的要因で喘ぎながら死ぬわけではない。
枯れて、去っていく、自然な事だ。
人は必ず死ぬ。ぜったいだ。世の中に「ぜったい」な事はたったひとつしかない。太陽だって、ぜったいに翌日また昇ってくる保証はない。限りなくぜったいに近い非ぜったい。だけど死はぜったいに訪れる。唯一。ぜったいだ。俺もだし、これを読んでる人も、いつか必ず死ぬ。ぜったいにである。暗い話でもなんでもない。自然な事だ。
この世に何十億人も、ひしめき合うように人がいる中で、老衰で。100を超えた、枯れるような臨終を迎える事が出来る人間が果たしてどれくらいいるのだろう。
病魔に冒され、苦しんで、藻掻きながら死ぬ人もいる。
事故に遭って、あっという間に、悔いばかりを残して死ぬ人もいる。
納得の行かない、受け入れがたい死。
少なくとも、エーコさんの迎える臨終は、そういった類の物じゃあないのだ。
ぜったいの最後を、自然に、当たり前に、夏の終わりの蝉のように迎える事ができるエーコさんは、むしろ幸せなのだろう。そうに違いない。そう、思いたい。

明るく送り出そう。
気持ちの良い、最高のお別れをしよう。
そう心に決めた。

●這いよる混沌。

長崎について、親父と会った。
老境にさしかかってますますブルース・ウィリスに似てきた親父と、まずは乾杯。
親父はジュンという名前だが、いい感じでハゲこなしてた。
若かりしころはバーコードにして、必死にハゲてない風を装ってたけども、ある時を境に達観したのかそれを辞め、サイドを短く刈り上げることでハゲを「乗りこなした」のである。そう。ハゲこなしたのだ。世の中にはハゲがたくさんいる。俺もまず間違いなく近日中にハゲるのだが、ジュンほどハゲこなせる気がしないし、実際にそういう人は滅多にいない。そう。ハゲを克服するのはとても難しいし、凄い事なのだ。なんせ似合ってる。息子の俺からみてもカッコいい。ジュンを見ていると、人類に髪の毛なんか要らないのかもしれんとすら思う。

「いやぁ……親父、なんかハゲこなしてるね」
「なんだそれ……。それよりお前、良く急に帰ってこれたな」
「そりゃ帰って来るさ。てかこういう時はすぐ言えよな……。間に合わなかったらすげー怒ってたよ俺」
「こっちもドタバタしてたんだよ」

と、キッチンの脇に蠢く不気味な陰を見つけた。
視線を向けると、ナーフオオ、という声がした。

「え!? 猫飼ってんの!?」
「うん」
「親父、犬派じゃん!」
「散歩が面倒だからもう猫でいいかなぁと」
「うそだろ……。あんだけ猫嫌いだったのに……」
「いや別に嫌いじゃないぞ。畑にフンするのが頭にくるだけで」

キッチンの陰から、四歳のアメリカンショートヘアがぬるりと全身をあらわす。
姿勢を低くして、探るようにねめつけながら、俺の座る椅子の周りを哨戒する。
這い寄る。立ち止まる。うねるしっぽが触手のようだ。
なぜだか頭に「クトゥルフ」とか「ヨグ=ソトホート」とか「ネクロノミコン」という単語がグルグル回った。

「なんかめっちゃ警戒されてるんだけど」
「気性荒いぞこの子は。気をつけろよ」
「名前は?」
「……猫」
「え?」
「猫だよ」
「嘘だろ! 何で名前つけてねーんだよ!?」
「せからしいなぁ。いいじゃないか別に」
「じゃあ俺付けるよ。テ・ケ・リリにしよう。いや、呼びづらいからテ・ケ・リーでいいや」
「なんだその名前」
「なんか俺に這い寄ってくる感じがすげー邪悪だったからさ。分かんないなら分かんないでいいよ。なんかそういう物語があるんだ」
「変な名前つけんなよ。俺の猫に……」

キッチンで二人して酒飲んでると、大阪にすむおじさんも実家に到着した。
おじさんはジュンの弟で、ケイという。
彼は子供の頃に日本脳炎をやったせいで、大きな障害を抱えてる。具体的にいうと耳が聞こえないし、言葉を喋れないのである。ろうあだ。そのおかげで、我が一族は全員ある程度の手話が出来たりする。

「おかえり。おじさん。久しぶりだね」
口を大きく開けて伝えると、おじさんは笑顔で頷いた。
ハンドルを握るような手つきで俺を指差す。
俺は首を振って、手を広げて飛ぶような形をしたあと、手首を叩いて、空中に18という数字を書いた。
飛行機で来たんだよ。18時に到着した。というのが、コレで彼に伝わった。
ちなみに、おじさんもテ・ケ・リーを見てちょっとビックリしていた。
犬派じゃなかったっけ?
猫も好きなんだよ。
俺には高度すぎて分からない手話で何かを伝え合い、大声で笑う。
流石兄弟だ。と思った。

おじさんはお嫁さん(と言ってもこちらももう老女といって差し支えない年齢だけど)も連れて来てたし、俺に連絡くれたオバちゃんも夜に旦那を連れて挨拶に来てくれたので、それはそれは賑やかな事になった。

明るい性格の、エーコさんの、旅立ちが近づく夜らしいなと思った。

●ジュン・ケイ・それから

さあ翌日だ。
朝一でエーコさんの見舞いに行った。
危篤の報せを受けてから2日経ってる計算になる。
聞いた所によると、一回意識不明になったあとに親父が「ワンチャンだけお願いします」と医者に依頼して打った点滴の効果で、今は容体が安定してるらしい。
一年と少し前に、一度だけ足を運んだ老人ホーム。
あの時に今生の別れをすっかり済ませた気分だったけども、いざこうしてもう一度チャンスが来ると、すこし怖気付いた。
なんせ、彼女は俺の名前を覚えていない。
前回は彼女は俺のことを「橋本さん」と思ってた。

「いやぁ、また俺のこと分からないだろうなぁ……」
「そうか。がんばれ、橋本」
「くそぉ。なんで親父とオバちゃんの事は分かるのに、俺わかんねーんだろう。はぁ。まあ当たり前か。すげー長い間会って無かったしなぁ……。自業自得とはいえ、また複雑な気分になりそうだよ」
「ちなみにこの正月は、ケイの事もわからなかったぞ。お前だけじゃない」
「ああ、そうだ。ケイおじさん、エーコばあちゃんがホームに入ってから何回くらい会ってるの?」
「正月だけしか帰ってこないからなぁ。お母さん入院して四年だろ今。だから、本格的にボケてからは二回くらいしか会ってないんじゃないかなぁ」
「ああ、そりゃ俺とドッコイドッコイか」
つうか孫の俺でもこれだけ複雑なのに、忘れられてる息子ってのもかなりヘヴィーだな。
いや俺よりキツイか。
俺はホームの廊下をケイおじさんと並んで歩きながら、その肩を叩いた。
忘れられてる同志、仲良く凹もうね。という気持ちを込めて。耳の聞こえないおじさんは、良く分からんがとりあえず頷いて呉れた。

そしてお婆ちゃんの部屋に入室。
二回目なので慣れたもんだった。

痩せてた。
枯れ木だ。
全く前と同じ感想を抱きつつ、ベッドサイドに並んで座る。
親父と、俺と、ケイおじさん。
ベッドに横たわり、虚空を眺めるエーコばあちゃん。

「おかあさん、来たよ。調子は?」

親父の言葉に、ふと、我に返ったようにその目の焦点があった。

「ああ──。いらっしゃい」

笑顔になる。
次にケイおじさんを見て。
俺を見て、不意に彼女は、目頭を抑えた。
俺と親父は、思わず顔を見合わせた。
泣いてる。何がお婆ちゃんのエモーションを揺らしたのか分からない。でも何かが彼女のハートに突き刺さって、涙腺を刺激したのだ。
もしかして、と思った。

「お婆ちゃん。お婆ちゃん。──久しぶり。俺だよ。分かるかい?」

ベッドに覆いかぶさるように、その肩を抱いて、耳元で言った。
薄い肩。皮の奥に、小枝のような骨の感触。冷たい。ほんとうにこの人は、つい先日、死の寸前まで行ったんだなと思った。それが、今は何かに感動して、泣いてる。無駄じゃないんだ。ワンチャンはあった。点滴をするかどうかに関しては親父もオバちゃんも、それから医者すら悩んだらしい。このまま逝かせてあげるのがいいのか、あるいは「何か」の為に点滴を打つのがいいのか。
「何か」ってなんだろう。
ただの延命に「何か」があるのだろうか。
俺なんかが一生懸命考えたって別になんてことはないけど、それこそターミナルケアの現場で働く人にとってはきっと永遠の命題だと思う。

「何か」の為の延命。

何も無いかもしれない。でも「何か」があるかもしれない。だから一回だけ。一回だけ点滴を打って延命しよう。何かだ。何か──。親父はその「何か」があると思ったのだろう。

──エーコばあちゃんは腕をゆっくり上げた。

俺は彼女の肩を掴んでいた手を離し、椅子に座る。
生きていた。彼女は確かにそこにいて、生きてる。
唐突に、俺にエーコさんの危篤を報せてくれた、オバちゃんの話を思い出した。

──一昨日具合が悪くなって、今はもう、ようやっと息だけしよらすと──。

親父の言葉も思い出した。

──一回意識が無くなったあと、点滴を打って、今は少し持ち直してる。

どの時点だろう、と思った。
どの時点で、彼女は点滴を打ったのだろう。
ワンチャン。
なんのワンチャンだ?
何かの為の延命。
何かってなんだろう。
もしかして、俺が「すぐに行く」といったから、親父は点滴を決断したのか。
ハッと思い立って、それからたまらない気分になった。

「何か」ってこれだ、と思った。
孫とのお別れの為の延命。
あるいはケイおじさんとの。
もしくは、親父を含めた我が血族の男衆、三人そろってのお別れ。
──この瞬間だ。
いままさにこうやって彼女の一挙手一投足を、沈黙して見守っている、この温かい空間こそが、親父が期待した「何か」だったのだ。

エーコばあちゃんは、人差し指を親父に向けて、口を開き、そして「じゅん」と言った。
親父が破顔する。
その手を握る。両手で、すがるように。
泣き笑いみたいな顔で。冗談めかして。答えた。
「そうだよ。ちゃんと分かるじゃないか。偉いね。お母さん」

次に、隣のおじさんに指を向けて「けい」と言った。
ろうあのおじさんと喋るとき特有の、口を大きく開けるしぐさで、はっきりと。
おじさんは老眼鏡を外して、ボロボロ涙をこぼしながら、その手を握って、頬を擦り付け、長い時間、ずっとそうしていた。

「何か」だ。と思った。これが「何か」だよ。

エーコばあちゃんは、次に俺に向かって信じられないくらい優しく微笑むと、指を向けた。

ああ、と思った。
俺は特定の信仰や宗教は持っていない。
だけども、無神論者じゃない。
その2つはアンビバレンツなようでいて、俺の中ではキッチリと融和してる。
信仰も、宗教もないけど、「神様はきっといる」のだ。
俺はその時、たぶん世界中の誰よりも泣いていた。
肩を震わせて、感謝していた。
神様にだ。それから親父に。医者に。オバちゃんにも、ケイおじさんにも。介護士のみなさんにも。休ませてくれた会社にも、飛行機を操縦してたパイロットにも。相談に持ってくれたバーのマスターにも。彼女にも。友達にも。もしかしたらテケリーにもだ。何がしかの歯車がカチッとはまってこの場に居合わせる事ができた僥倖に。もしくは、このタイミングで居合わせる事ができた奇跡に。あるいはそれに影響を与えた、全ての存在に。あまねく感謝した。

エーコばあちゃんは微笑みながら俺を見つめて、人差し指を向けながら、しっかりと、俺の名を呼んでくれた。

思い出してくれたのだ。あるいは、覚えてくれていた。
信じられない幸運に、俺は本当にむちゃくちゃな気分になって、嗚咽を漏らしながら、ゆっくりその手を胸に掻き抱くようにして握った。

「ありがとう。ありがとうお婆ちゃん。覚えていてくれて、ありがとう。思い出してくれて、ありがとう。俺を育ててくれて、ありがとう。本当にありがとう。お婆ちゃん、お婆ちゃん──」
「○○○、心配せんでもよかよ? わたし、大丈夫けん」
「うん……。うん。わかった。わかったよ……」
「あんたの手、温かいねぇ……。ホッとするごたん……。よか気分よ? 大丈夫けんね。わたしは。みんな。大丈夫よ?」

滂沱だよ。
全員。その場の全員。介護士さんを含めて、全員超泣いてた。エーコさんもだ。泣いていた。もうこんな機会は絶対ないと、彼女自身分かってた。最後の時が迫ってると、ちゃあんと理解して、受け入れてた。ドラマティック過ぎた。映画が好きなエーコさんらしい、完璧なシーンだと思った。
親父が、或いはオバちゃんが。もしくはお医者さんが望んだ「何か」は、よっぽど、期待以上の成果を持って、こうして現実の物となったのだった。

人は絶対に死ぬ。
でも少なくとも彼女の──エーコさんの死は、悲劇なんかじゃない。自然な、当たり前のことだ。
大往生である。

imag1e1

 

家に安倍総理からの表彰みたいなのもあった。
100歳って、内閣府から何か届くくらいの慶事なんだよ。
すごいよ。エーコさんよく頑張った。誇りです我が一族の。
未だに美しく、ひょうきんで、ドラマティックで、優しい人だ。
湿っぽいけど、実際は本当にすごく清々しいというか、良いお別れができた。
悲しさよりも、何か深い、充実した感情が強くて、それが何か良くわからないけど、とても強い気持ちになった。
ひとしきり泣いたあとは、例の明るいオバちゃんが来て、一気に賑やかになった。
エーコさんを囲んで、お互いに大きな声で、彼女にも聞こえるように、近況報告をしたり、笑い話をしたり。
お婆ちゃんは目をつぶって黙って聞いていたけど、そのうち眠ってしまったので、俺たちはそっと、病室を後にした。

長崎にいる間、俺は何度かお婆ちゃんの様子を診に行って、その合間に、久方ぶりに合う友達と、メシくったりドライブしたりして、旧交を温めた。長崎に帰って来てえな、という想いが不意に高まったからである。絵に書いたような郷愁だ。
あくせくと働いて、追い立てられるような気分になっていたのが嘘のように、スッと楽になった。

複雑な家庭環境で育った俺は、もはや帰る場所なんてない無いと、曖昧な立ち位置のままでずっと戦ってきた。ふらふらと根無し草のように居を変え、仕事を変え、あるいは友好関係もその時々で刷新し、リスタートして、立ち向かったり、逃げたりしながら、どうにかこうにかやってきた。
今回、四日間とはいえ、学生時代ぶりに実家で生活してみて思ったのは、血は水よりもやっぱり濃い、という事だった。
普段水を飲んでいる、生活している場所より、生まれた場所。血族がいる場所。そこがやっぱり自分のホームグラウンドなのだろう。
俺にとって長崎は、なんとも包容力に富んでいて、笑い声に満ち溢れた、ある意味で呑気な、癒される場所だった。
それは長崎が良い場所だというわけではなくて、そこが俺の故郷だからなのだろう。
そしてその故郷はきっと、誰にでもあるわけで。
何が言いたいかというと、若者よ、田舎にはちゃんと帰れと。
そう言いたい。
年一でも、二年に一回でも、オリンピックごとでもいいから、たまには帰って、癒やされた方が絶対良い。
オリンピック二回分以上帰ってなかった俺が言うなという感じだけども、だからこそ説得力があると思う。

以上だ。

俺、頑張るね。もろもろ頑張ります。
頑張るから、本当に。
じゃあね、婆ちゃん。育ててくれて、本当にありがとうございました。

 

▼ひっそりとブログ村参加中です。
ブログランキング・にほんブログ村へ

▼あと、ツイッターもやってます。

 

カテゴリー: 雑記その他   パーマリンク

去りて儚き への10件のコメント

  1. どなな より:

    お久しぶりです!
    僕も一昨年ぐらいですが長崎の祖父が亡くなったんでコメントさせていただきました!
    まだ親は健在ですがいつか自分を育ててくれた人と分かれる時が来ると思うと後悔がないようにしたいものです。

    • あしの より:

      どななさん!
      チワッス!
      ああそうか……そういえばこのあと親の死も乗り越えないといけないのですね。我々。ああ、生きるって大変なことばかりですね……。
      今後共よろしくお願いします!

  2. 秋夢 より:

    素直に感動したとだけお伝えします(T_T)

  3. すらぁ より:

    あしのさん。ありがとうございます

    とても心が震える文章でした。

    そして、がんばってくださいね!応援してます

    • あしの より:

      すらぁさん!
      チワッス!
      こちらこそ、いつもありがとうございます!!
      更新頻度マジで気をつけます。意識して書いていこう……。

  4. 名無しの5円スロッター たまに1円パチンカー より:

    うちの母方のばあちゃんが96で逝きましたが、末期は孫の区別が若干つかなかったですね。

    野方から東北に疎開して、旦那が早々死んで、家庭科の先生しながら4姉妹育てあげて…苦労ばかりしていたんでしょうが、やはり先生経験者だからか、怒るときは諭される感じでしたね。

    • あしの より:

      ごすろたまいちさん!
      チワッス!
      いいおばあちゃんですね……。ああ、おばあちゃんは本当にいいなぁ……。優しさしか無かったです。また会いたいなぁ。

  5. サトック より:

    久しぶりに覗いたらエントリされてたので拝読しました。
    あしのさんの実家、長崎なんですね。
    自分長崎で看護師してるんで(男っす)ひょっとしたらうちの病院じゃなかったのかなーと思ってしまいました。まー、長崎市だけでもいっぱい病院あるんで多分違うんでしょうけど、入院できるような病院かぞえたら何十分の1とかなんで、引きが強ければうちの病院だったんかなぁとスロットブログっぽいことを考えてしまいました。

    なかなか、ドラマチックな臨終って立ち会った記憶がないですわ。なので、ホントによかった(?)ですね。
    死ぬ前まで延命治療するかどうか決まってなくて、心臓マッサージとかで肋骨バキバキにおれたりして、家族が見かねてやめてって言ったりとか、家族が到着するのが遅れて、もう脈とまってるのに心臓マッサージ続けたりとか、結構ヘビーなことが多いです。そのたびに死に方って大事だよなぁと思います。

    エーコさんは「何か」を残せてよかったですね。
    あしのさん自身も、そんな「何か」を残せるといいですね。わたしも「何か」残せるんだろうか。
    お互い人生頑張りましょう。ではでは。

    • あしの より:

      サトックさん!
      チワッス!
      ありがとうございます!
      いやー、だいぶ時間がたっちゃいましたが、今でもこの時のことを思い出すと泣けてきます。
      よかったです! 今後共よろしくです!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

答えを入れなきゃコメントできないよ! *半角数字でな!

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">