【心の名機】熊酒場(ネット)

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(※こちらは2014年頃に書いたエントリの移植版になります。ザ・迷走しとる)

大槻ケンヂ先生のバンドと言えば「筋肉少女帯」だ。
俺と同じ世代か、もしくはそれより少し上の人で、殊更サブカルファンの人であればおさえておいて当然の、イロハで言えば「イ」にあたるバンドだと思う。ちなみに「ロ」は人間椅子らへん。
こういうと語弊があるかもしれないけど、筋少は曲よりも、歌詞と世界観で聴かせるバンドだと思う。
すげーいいんだよ筋少。マジで。
大学生スロッターとかはまず間違いなく知らないバンドだと思うんだけども、聴いて損はないんでぜひどうぞ。
個人的オススメは「サンフランシスコ」。

で、そんな筋少が何やかんやあって分派(?)したり新メンバーを迎えたりしたバンドが「特撮」だ。
「さよなら絶望先生」の曲のバンドと言えば、「ああ!」となる人もいるかもしれんが、こっちは割りと知名度が低い。
その昔有線で「アベルカイン」が流れてるのを耳にした時「なんだこの筋少っぽい曲は!」って思って調べたら実際に筋少だったんで即座にリリースアルバム全部そろえたけど、中でも俺の心をグイグイと抉(えぐ)ったのが「ヌイグルマー」という曲だった。

ヌイグルマー。

その名の通りヌイグルミのヒーローなんだが、悲壮感が半端ない。
タイトルはバカバカしいんだけど、歌詞がマジで泣ける。
こういう訳の分からん切なさを表現させたら大槻ケンヂ先生はマジで上手いと思う。
めっちゃニッチな所狙ってると思うんで、ピンと来ない人にはサッパリだろうが、身に覚えのある人にはピンポイントでグサグサ刺さるよ。

身に覚え?

そう、この曲の歌詞が刺さる対象になるにはあるシンプルな条件がある。
それは、「ヌイグルミ系男子」であることだ。

というわけで今回はネットが2007年に登場さしめた名機「熊酒場」について。

●ヌイグルミと俺。

さて、ヌイグルミ。
ちょっとアンケートでもとって見たいレベルで疑問なんだが、果たしてこれ読んでるスロッター諸兄で「ヌイグルミを持ってる人」って何人ぐらい居るんだろう。
手ぇ挙げて! 持ってる人! ハンズアップ! イエア!
あ、彼女が置いてったヌイグルミとかそういうのは除外ね。
あくまでも自分用に限定。

さあ! いるか!

俺ねぇ、コレほぼ居ないと思うんだよ。
居てもホントに数%とかそういうレベルだと思う。
んで翻って俺だけども、実はヌイグルミ死ぬほど持ってるんだよ。
死ぬほどだよ。実家の押入れの中まるまるヌイグルミだよ殆ど。
今棲んでる家にも三体くらいあるよ。
ヌイグルミ。
もう完全に変態なんだけど、これには凄く深い理由があるんだ。
熊酒場はおいといて(おいとくなよ)ちょっと語る。

……ゴホン。
ええ、その昔……学生時代に、俺はゲーセンで働いてた時期がある。

当時は麻雀格闘倶楽部とかドラムマニアとかのコナミゲーがやたら流行ってた時期なんだけど、「ポストペット」も流行ってた。
あのピンクのクマだよ。
だものでUFOキャッチャー(というのは個別の商標で、ゲーセンの中ではあれらを総称して「プライズマシン」と呼んでる)の中の景品は、六割くらいがその「ポスペのクマ」だった。
ちなみにあのクマには「モモ」という名前があるんだが、当時ゲーセンでプライズマシンの設定を調整したり中身を入れ替えたりする機会が多かった俺は、毎日彼らと触れ合う打ち、いつしか正体不明の親近感を覚えるようになってた。

モモ。

ピンクのクマ。ただそれだけだよ。
丸っこいフォルムとそこだけが白い手足。
時期ごとに色んなバージョンの「モモヌイグルミ」がグイグイと入荷された。
彼らは基本的に裸んぼなんだけど、たまにドレス着てたりスーツだったりと妙なコスプレしてるバージョンが入ってきて、毎日の仕事の中でのちょっとした癒やしになってた。

で、そのゲーセンがある日、唐突に潰れた。

まああの時期に大量閉店したゲーセンでコナミと中が良いところと言えばピンとくる人もいるだろうけど、マジで唐突だったね。
1週間前にいきなり知らされて、その日から撤退準備っつうか、負け戦の後片付けみたいな感じの業務に突入した。
ゲーセンが潰れるときはホント寂しいよ。見慣れたホールから、毎日毎日、少しずつ機械が無くなってくんだよ。アレらは会社からすると減価償却の有無に関わらず資産なわけで、まとめて捨てる訳にはいかないからさ。別の店舗に運ぶなり売却するなりの作業が、まだ営業中にガンガン行われるんだ。
慌ただしい一週間の最終日。
最後の閉店作業を終えたあと、残ったのが大量の「モモ」だった。

ガランとした薄暗い店内で、結局誰にも持ってって貰えなかったモモたちが、その真新しいボタンの瞳をこっちに向けててさ。

スゲー可哀想に思えたんだよ。捨てられたら燃やされるだろうし。
こいつらは入ってきた店舗間違えただけで、決してゴミじゃないのにさ。
なんつうかさ、これはもう日本人の中に脈々と流れるアニミズム文化っつうかね。
ただのヌノとワタの集合体に見えないんだよ、もうそういう可愛い形にされちゃうと。
ワタの塊だったら余裕で燃やしてオーケーなんだが、クマの形になったらそれはもう、自我を持ってるようにしか見えないんだ。
もちろんその自我って観察者側が勝手に自分の気持ちを投射してるだけのエコーなんだけど、ただのワタにはそのエコーすら無いじゃんね。
何かゴメンねモモ。こっちの都合で勝手に自我を与えて、こっちの都合で勝手に捨てて。
何て身勝手なんだろうね人間。

そういうの考えると、なんかもうめっちゃ切なくなって、俺は結局、そのうちの一体を引き取る事にしたんだ。

●命名。桃井さん。

当時付き合ってた彼女にその子を見せると、「新しい家族が増えた!」つって喜んでくれた。
最初は変なポーズとらせたり、勝手にセリフ言わせたりして遊んでたけど、「モモ」じゃアレなんで「桃井さん」って名前付けた。
んでいつしかそれが省略されて「モイさん」になったあたりで、もはやそのヌイグルミは完全に我が家の大切なメンバーになった。
薄汚れ始めたら「なんかモイさんが臭いんで風呂に入れる」という事でドライクリーニングに出したり。
真新しい姿で帰ってきたモイさんを見て爆笑したり。
彼女と喧嘩した時はモイさんからの手紙というテイで代わりに謝らせたり、別れの危機をモイさんで乗り切ったり。
マジで便利……もとい、可愛くて仕方なかった。
よくよく考えたら俺動物が好きなんだよ。
ネコ飼ってたし。
その子居なくなってからはネコやらに向けられるべき愛情みたいなのが、全部モイさんに向かってた。

んでだ。
自分ゲーセン好きじゃないですか。
休みの日に遊びに行くじゃないですか。
ポスペフェアなんかどのゲーセンでもやってるわけで、こう、プライズマシンみると、モイさんの兄弟がいっぱいいるじゃないですか。
みんなこっち見てるじゃないですか。

……うっかり取るよねこれ。

そうしていつしか、当時の俺んちは「たまたま遊びに来た友人が引くくらい」、ポスペのクマでいっぱいになった。
もち、全員に命名済み。キャラ設定までしっかりしてた。誰と誰が仲良しとかそういう関係設定までバッチリだよ!
彼女とちんまん体操するとき、わざわざヌイグルミの居ない部屋でしてたからね。
我ながらスゲーと思ったのが、部屋に超デカいムカデが出た時。
どっから入ったんだよこれ! みたいな毒虫の登場に俺はすこぶる慌てたし対処法がわかんなくて右往左往してたけど、そいつがオリジナルの「モイさん」に近づいてった瞬間「ヤバイ」と思ってとっさに素手で払ってすっ飛ばしたからね。ムカデ。絶対触りたく無い生き物ベスト3に入っても良さそうな形してるのに。

愛だよ愛。これはもう。

そんなモイさんは今でも実家の押入れの中に。
ちなみに現在の設定は「冬眠中の長老」だ。

で、前述の「ヌイグルマー」なんだけど、これ、ヌイグルミ系男子にとっては最強に刺さる曲になってる。
大槻ケンヂ先生といえば「ブースカ」のヌイグルミを多数所持してて、それらを全部「自分の子供」として扱ってる事で有名だけど、これ結構キテるエピソードだと思う。
ただ、俺も人のことなんざ言えたもんじゃないんで、もしかしたら日本全国には俺が思ってる以上に、ヌイグルミ系男子が多いのかもしれん。
なんせゲーセン時代、プライズマシンファンの三割くらいはオッサンだったからね。

イエア!
いいんだよ!
行き場のない父性をぶつけるのに、物言わぬキュートなヌイグルミは最高なんだ。

ヌイグルマー!

これさ、闘うのがクマのヌイグルミだからね。
糸がほつれ、ワタがはみ出ても「あなた」を守るために、闘うんだよ。ヌイグルミが。
でも「あなた」は人間で「私」はヌイグルミなわけでさ。
結ばれる事なんざないんです。
年老いてく「あなた」が思い出話を聞かせてくれるのに満足しながら、永久にずっとそばに居て、危機が来たらまたボロボロになって闘うんだよ。
ヤバイねこれは。
書いてて早くも泣けてきた。
ああ、いいなあ特撮。
てか大槻ケンヂ先生天才だなマジで。
ジーニアスだよジーニアス。
マジでな。

で、ここまで全然台に関係ないから!

●どんな台だったか。

ええと、一気に話戻して熊酒場。
これ当時プチ流行してた「完全告知のAタイプ」だった。
「爺夏」とか「楽シーサー」とか「アクアビーナス」とか「プレイボーイ」とかね。あと「けものっち」とか「すももちゃん」とかもそうだっけ?
「ビーキッズ」のリメイクとかもあった気がするね。とにかく腐るほどあったよ。
基本的に完全告知機は面白くて当たり前なんだけど、それだけに作り手のセンスがすげー試されると思う。
個人的には5号機の完全告知機でベストなのは「アクアビーナス」なんだけど、二番手にはこの「熊酒場」が来る。
両者に共通するのはボーナス成立後のリプレイをそのまま前兆扱いにして、何となく「準完全告知」っぽく仕上げてる所のみで、後は取り立てて共通項らしきものはないんだけど、なんかとても好きなんだよね。
アクアビーナスに関してはリプ連告知に特化したシブい作りになってて正真正銘のガチ名機、
一方、熊酒場は液晶搭載機でどっちかっつーとネットお得意の「ユルイ笑い」を狙った作りになってる。

モチーフになってるのは「クマが経営する居酒屋」だ。
理由? 知らん。

役物としてシャッターがついてて、ガタガタすればボーナスチャンス。
ハズレで開いて女将が「いらっしゃい」と言えばボーナス。
これだけ。
同時抽選役を含む小役揃いはガタガタ続行で次ゲーム以降のハズレ時に告知になる。
ガタガタの大きさによってある程度アツさが分かるという地味な演出も取り入れられてるけど、基本的には完全告知機らしい、シンプル極まりない作りになってる。

んでボーナスは二種類。
BIGが「大熊ボーナス」でREGが「小熊ボーナス」。

特筆すべきは「小熊ボーナス」だけど、これはもう何からなにまで可愛い。
揃えた瞬間の煽りが子供の声で「小熊ボーナス……だけどゆるして?」だからね。
めっちゃ可愛いよこれ。
んで消化中、なんか小さいクマがよちよちと変な踊り(?)を繰り広げるんだけど、これがまたハァハァできる。
最高! 小熊最高!
ここまで「REGでもいいんだよ」って思えるAタイプってなかなか無いよ。
そういう意味ではやっぱこれ正真正銘名機だわ。

でもなーこれ、プレミア演出で小熊が実はキグルミで、中にオッサンが入ってて休憩中タバコ吸ってるって謎の画像が用意されてんだよ。
マジで最初見た時愕然としたね。
ナンデこんな演出入れた!?

ネットはマジでこういう事するからね!
なんだろうなこれ。
プレミア演出でた時「これさえなきゃな」って思ったのって初めてかもしれないよ。
クマスキーとしては如何ともし難いモヤモヤが残るんだホント。
それ見た後、小熊出る度に「オッサン入ってるんだよな……コレ……」つって微妙な気分になったもの……!

まあ、ちょっとだけ笑ったんだけどもね。

以上

【2020年あしの評】
いよいよ面白いことが書けなくなってきて自分語りに走り始めた時期の作品。ちなみに途中で出てくるゲーセンは大学時代にバイトしてた「タイトー」だけども、その直後に俺は「セガ」の契約社員になってる。んでセガのときに出会ったのが「おっぱい」なので、そんなめちゃくちゃ昔の話じゃなかったりする。

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